不倫相手の配偶者から慰謝料請求されたとき②~ご自身での対応にリスクが伴う理由~
弁護士 小島梓
ご自身で,とりあえず謝罪をしたり,事実とは違うことまで認めてしまったり,払う資力もないのに高額な慰謝料を支払う約束をする誓約書に署名押印をしてしまう対応にはリスクが伴うということ,前回,お伝えしました。
実際に不倫をしていた場合には,いずれは謝罪もしなくてはいけないし,慰謝料も払わなくてはいけないのだから,大きな問題はないのではないかと思われる方もいらっしゃると思います。
しかし,今の実務や合意の仕方を考えますと以下のように大変リスクのある行為であると言えます。
(1)安易な合意
・既婚者との交際=配偶者に対する不法行為となり,必ず慰謝料が発生するというわけではない。
・慰謝料の金額については裁判で認められうる一定の基準が存在する。
というのが今の実務の考え方です。
すなわち,仮に不倫をしていたとしても,事情を吟味した結果,仮に裁判になった時には,慰謝料が発生しない可能性があったり,慰謝料が低額でおさえられる可能性がある場合もあるということです。
当方では実際に諸事情より,通常よりも低額の慰謝料で合意し,解決することが出来た事例(既婚者の女性と交際し、女性の夫から慰謝料請求された事例)がありますのでご参考になさってください。
https://www.gender.owls-law.com/2020/06/7836/
このようなことを確認せずに,ご自身で対応されてしまうと,後に,慰謝料の発生自体を争いうる事案であったり,通常よりも著しく高い金額であったと分かっても,合意を覆すことは難しくなります。
また,日本の民事裁判においては,当事者間の合意を一定程度重視しますので,通常よりも高額な慰謝料であっても,当事者間で一度合意をしている場合には,合意を尊重されてしまい,合意した金額が裁判で認められる可能性も出てきます。
さらに,勘違いされている方も多いのですが,日本の法制度において“合意”は口頭やメールのやりとりのみでも成立しうるものです。
そのため,電話で了承したことを相手方に録音されていたり,金額について了承したメールを相手方が保管していたりする場合には合意を裏付ける証拠となりえます。
書面に署名押印しなければ問題ないと考え,安易に口頭やメールで合意をする行為も大変リスクのある行為であることがお分かりいただけるでしょうか。
(2)不十分な合意内容
ご自身で,合意をして,お金を払ったのに,追加で慰謝料を請求されたり,不倫の事実を口外されたりすることで,解決に至らずに,困ってご相談にいらっしゃる例も珍しくありません。
この原因は不十分な合意内容にあることがほとんどです。
例えば,追加請求は一切なしという確認(いわゆる精算条項)が入っていなかったり,不倫の事実や話し合いの事実を第三者に口外しない約束(いわゆる郊外禁止条項)が入っていたなかったりするため,せっかく合意をして慰謝料を払っても,紛争の抜本的解決に至らないのです。
合意をしても紛争が終わらないのでは意味がありません。
合意内容を検討する際には,目の前の相手方からの要求を何とかやめさせるという短期的な目標ではなく,紛争の抜本的解決のためにどんな条項が必要かということを事案の状況に合わせて考える必要があります。
その意味で専門家のチェックを経ずに合意することにはリスクが伴います。
さらに,多くの方が考慮し忘れておられたり,どうしてよいか分からないままになってしまっている問題に,ご自身の配偶者の問題があります。
次回は,ご自身の配偶者がこの慰謝料請求にどう関係するのかをご説明したいと思います。