コラム

男女交際と慰謝料

不倫の故意過失②

弁護士 小島梓

 前回のコラムでご説明したように、裁判において、不倫相手の女性から夫婦関係がうまくいっていないと信じていたので、自分には故意・過失がなく責任がないという主張は非常よく出てきます。このような主張に対する裁判所の判断の一例を、今回はご紹介します。

(1)夫婦関係が破綻しているという話を信じた
 非常に多いのが、不倫をした夫自身が不倫相手の女性に対して、妻とは不仲である、夫婦関係が破綻していると説明しており、不倫相手の女性はそれを信じたと主張する事案です。しかし、このような事案において、裁判所は、不倫をした夫の言動を信じただけで、それ以上の事実確認もしていないような場合には、それを信じた不倫相手の女性に、少なくとも過失があると判断することが多いです。
 残念ながら夫が不倫相手の女性に嘘をついている場合もありますし、夫は夫婦関係は破綻していると思っているが妻はそうは思っていないというように双方の認識が異なっていることも非常に多いです。結局、不倫をした夫の夫婦関係に関する言動は非常に不確かなものであることが通常ということです。
 以上の次第ですので、不倫相手の女性側からしますと、不倫をした夫から夫婦関係は破綻していると聞いていたから大丈夫ということは決してないということになります。

(2)別居したと聞かされていた
 より具体的に事実として、別居したという事実を聞かされていたので、夫婦関係は破綻していると信じたという主張はどうでしょうか。
 裁判例では、不倫相手の女性は、不倫をした夫と妻は別居していると聞いたものの、妻が離婚に応じないということも認識しているなど、その他の事情から婚姻関係が破綻していると信じることについて相当の理由があったとまで言えないとして、不倫相手の女性には故意・過失があると認定したケースがあります。
 別居をしている事実があり、その事実を聞いていればさすがに夫婦関係は破綻していると思うのではないかという気もしますが、上記の通り、総合的な判断となりますので、別居の事実を聞いていたとしても、必ずしも故意・過失がないという判断にはなりません。

 このように、不倫相手の女性による「夫婦関係が破綻していると信じていた」旨の主張が認められることはほとんどありません。すなわち、不倫相手の女性が既婚男性と認識したうえで、交際をしている場合には、基本的に不貞行為に関する故意・過失は認定される傾向にあると思われます。

 次に、不倫相手の女性が、既婚者の男性との交際を始め、途中で男性が既婚者だと気づくケースもあります。実際に、不倫相手の女性から「当初未婚であると嘘をつかれていたので、既婚だと知らなかった」という趣旨の主張がなされることは珍しくありません。
 このような場合の不倫相手の女性の故意過失はどのように認定されるのでしょうか。

 次回は、このようなケースでの故意過失の問題をご説明します。