不倫相手の女性からの損害賠償請求について①
弁護士 小島梓
「交際解消に伴う「慰謝料」の問題」にて、ご紹介したとおり、不倫相手の女性から不倫をした夫に対して、交際により無駄な時間を費やしたから、結婚してくれなかったからなどといった理由により高額の慰謝料請求がなされるケースがあります。
このような請求は認められるのでしょうか?
結論から申し上げますと、現在の裁判実務に鑑みると、不倫相手の女性から不倫をした夫に対する損害賠償請求が認容されるケースは非常に少ないと考えられます。
今回は、まず裁判ではどういった判断がなされる傾向にあるのか、裁判例をご紹介しながらご説明します。
不倫をした夫から不倫相手の女性に対して、妻とは離婚する、不倫相手の女性を愛しているから結婚したいという趣旨のことを繰り返し述べていたが、結局妻とは離婚せず、不倫相手の女性との結婚も実現しなかったことから、不倫相手の女性が貞操権侵害等を理由に損害賠償請求した事案があります(東京地方裁判所平成25年2月6日付判決)。
このケースで、裁判所は、不倫相手の女性からの請求について、不倫をした夫がAに対して、詐言を用いて結婚への期待を持たせた行為があり、それによって、Aが結婚を期待するようになった経緯があったことは認めながらも、民法708条の趣旨に照らして、請求は認容できないという判断をしています。
これはどういうことかと言いますと、不倫という公序良俗に反すると評価される行為を自ら行っている者が法の力を借りて損害賠償請求を求めることは、不法原因給付物の返還請求を認めない民法708条の趣旨に鑑みて許されないということです。
不倫をした男性側がその気もないのに妻と離婚する、不倫相手の女性と結婚すると述べることは決して褒められた行為ではありません。これが紛争の基になるのは間違いありませんので、このような言動は控えるべきです。
しかし、不倫相手の女性が不倫だとわかっていながら、交際を開始し、継続した場合には、このように不倫をした夫側が不適切な言動をとっていたことが認定されたとしても法律上は保護されないことが多いのも現実ですので、十分にご注意いただく必要があります。
では、このようなことも踏まえて、不倫相手の女性から慰謝料を払え、払わないなら妻にばらすなどと言われた場合にはどう対応すべきでしょうか。
次回はこの点についてご説明します。