破綻の抗弁
弁護士 長島功
不貞行為による損害賠償請求に対して、被告よりなされる反論の典型に、既に婚姻関係が破綻していたという、いわゆる破綻の抗弁があります。
不貞行為開始時において、既に婚姻関係が破綻していたのであれば、不貞を行った者は賠償責任を負わないため、裁判ではこの破綻の有無が争点になりやすいです。
もっとも、破綻の認定は、この事実があれば認定されるという明確なものがある訳ではなく、結局は事案ごとの判断にはなってしまいます。不貞を行った側からは、この破綻を基礎付ける要素として、様々な事実が主張がなされるのですが、よくなされる主張について、以下で解説したいと思います。
1 別居について
まず、別居は夫婦間の状態を示す客観的なもので、婚姻関係の破綻を判断する上では重要な要素と考えられます。
実際、5年程別居状態が続いていることを根拠に、婚姻関係の破綻を認定し、不貞行為による損害賠償責任を否定する裁判例もあります。
もっとも、この別居もあくまで判断の1要素に過ぎませんので、別居の事実があっても破綻を否定したり、逆に別居の事実がなくても破綻を肯定している裁判例もあります。別居の事実については、期間はもちろんですが、別居に至った経緯、別居期間中のやり取り等も重要といえます。
2 性交渉がなかったこと
不倫をした側よりよく出される反論として、原告である妻・夫とは性交渉がなかった故に、破綻していたという主張があります。ただ、結論からいうと、この性交渉がなかった事実というのは、裁判所はそれ程重要視はしていないように思います。
仮に性交渉がなかったとしても、同居をしていたり、家計が一緒になっていたりして、共同生活を営んでいるような場合には破綻は否定されることが多いです。
もっとも、性交渉があった事実は、破綻を否定する事情に強く働くと考えられます。
3 離婚協議
不貞行為を行った時点で離婚に向けた協議が行われている場合、これは婚姻関係破綻を認定する上で重要な事実にはなると考えられます。
ただ、単に一方が離婚の意思表明をしているだけに過ぎない場合には、それ自体は破綻を認める要素にはそれ程ならないと考えられます。同じく、離婚調停の申立てをしただけに過ぎないような場合も、調停の申立ては他方の承諾なくできる手続である以上、破綻の認定にとって、それ程重要視はされず、あくまで調停での話し合いがどのようなものだったかが、破綻の有無に影響すると考えられます。