コラム

裁判例 不貞慰謝料請求

不貞行為が強要されたものだったとして、慰謝料を否定した裁判例

弁護士 幡野真弥

 東京地裁平成22年6月11日判決をご紹介します。
 被告は、既婚者である男性Aと交際しましたが、当初はAが結婚していることを知りませんでした。その後、結婚していることを知りましたが、男性Aから署名押印済みの離婚届のコピーを示され、離婚したと言われ、そのまま信じていました。
 しかし、その後、弁護士の戸籍謄本等の調査によって、Aが離婚していないことを認識しました。
 このような事案で、男性Aの配偶者から慰謝料を請求されました。
 
 裁判所は、まず、配偶者がいることを確実に認識するまでは、男性Aと性交渉を伴う交際をしたことについて、不法行為責任を負うことはないと判断しました。
 被告がAと原告の婚姻継続の事実を知った後については、「被告は、Aとの関係を断ち切ろうと努力していたのであって、Aと性交渉を伴う関係が続いたのは、Aが被告や弁護士に対して執拗に暴行や脅迫を続け、また被告の勤務先に対しても電話をし、又は訪問するなどして、脅迫、営業妨害等の嫌がらせを継続したため、やむを得ないことであったと見るのが相当である」「Aが原告と婚姻関係にあることを知った後のAとの肉体関係は、Aに強要されてのものであって、合意に基づくものではないという供述は信用することができる」と判断しました。
 そして、原告との婚姻の事実を知った後のAとの関係においても、被告の行為が原告に対する不法行為を構成することはない、と判断しました。