暴力や脅迫などにより不貞関係が作られたとして慰謝料を否定した裁判例
弁護士 幡野真弥
今回は、東京地裁平成21年9月25日判決をご紹介します。
元妻が原告となって、元夫Aと被告が不貞行為を行い、婚姻関係が破綻したとして、慰謝料を請求する訴訟を提起しました。被告は、不貞関係は、元夫Aによる欺罔・暴行・脅迫により、形成されたものだと主張し、争いになりました。
裁判では、以下の事実が認められました。
・被告は,Aが原告と結婚したことを秘して平成18年4月終わりころ被告に交際を求めたこと
・同年6月にAが被告から問いつめられて結婚していることを認めたこと
・そのため被告が交際の誘いに応じなかったこと
・同年6月29日ころにはAと原告との婚姻関係がAの借金問題等から破綻状態にあり離婚届が両名により作成されたこと
・Aが被告に対しA及び原告の署名捺印のある離婚届の写メールを見せかつカードローン等の金銭問題で夫婦関係がうまくゆかず婚姻関係が破綻していて離婚する話になっていると告げたこと
・そのため被告が離婚の話を本当であると信じたこと
・Aが交際を迫るため被告宅のインターフォンを鳴らし続けたり同年8月には被告宅の近くにマンスリーアパートを借りて住んだり、被告宅で包丁を突き立てて暴れるなどして被告を恐怖に陥れたこと
・Aがたびたび被告宅に押しかけいやがらせをエスカレートさせてインターフォンを鳴らし続けたりドアを叩いたり寝室の窓を物干し竿で叩いて被告が起きるまで続けるなどし、さらには破壊的な他傷自傷行為に及ぶなどにより被告の抵抗を奪い被告を妊娠させたこと
・被告が妊娠中絶手術に及んだこと
このような事実関係をもとに、裁判所は「被告のAとの関係は,当初はAの欺罔的行為により後には暴力的脅迫的な行為により形成されたもので,当該関係における被告の行為が原告の婚姻関係を破綻させるものであるとか原告の権利を侵害する違法なものであったとは認められない。」と判断しました。