コラム

裁判例 不貞慰謝料請求

別居後の不倫に慰謝料が認められた裁判例

弁護士 幡野真弥

 最高裁平成8年6月26日判決は、配偶者が第三者と肉体関係を持った時点で、夫婦の婚姻関係が破綻していた場合は、特段の事情のない限り、第三者は不法行為責任を負わないと判断しました。

 不貞行為を理由に、相手方に慰謝料を請求した場合、相手方からは。この判例に基づき「不貞行為の時点で、夫婦関係は破綻していた。」という反論がなされることがあります。
 しかし、別居した期間が短かったり、離婚したいと申し入れていた、という程度では、婚姻関係が破綻していたとまではいえず、慰謝料は発生する事があります。
 
 東京地裁平成29年 2月24日判決をご紹介します。
 夫が、平成26年4月30日、妻である原告に対し、離婚したい旨を述べて別居を切り出し、以降、原告と夫は、別居していました。
 夫は、弁護士に依頼し、原告に、離婚調停申立ての準備が整っていること、代理人弁護士と離婚条件を詰めていきたい旨を通知しました。
 被告と夫は、平成26年8月13日から同月17日にかけて、2人で旅行に出かけ、宿泊先ホテルでは同室に宿泊しました。

 このような事案で、原告は被告に慰謝料を請求し、被告からは、「不貞行為の時点で、夫婦関係は破綻していた。」という反論がなされました。
 裁判所は「A(夫)の離婚意思が固いことを踏まえても,一方当事者の意向にすぎず,別居から3か月余しか経過していない本件旅行の時点においては,原告とA(夫)の婚姻関係は通常の夫婦の状態にはないものの,決定的な破綻にまで至っていたものとは認められないというべきである。」と判断しました。

 そして、既に原告と夫の婚姻関係は、決定的な破綻にまでは至っていないものの修復が相当困難な破綻の危機にあったことや、旅行が原告と夫との婚姻関係の破綻に大きく寄与したものと考えることはできないこと、被告とAの不貞行為は一時的なものであることなどの事情から、慰謝料は30万円となりました。