不貞慰謝料と非免責債権
弁護士 長島功
不貞行為により慰謝料債務を負う者が、破産の手続をとった場合、慰謝料の支払い債務はどのようになるのでしょうか?
破産手続により、基本的に破産者の債務は免責されるのですが、破産法では免責されない債権(非免責債権)がいくつか挙げられており、その1つに、「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」(破産法253条1項2号)があります。
そこで、不貞行為に基づく慰謝料請求権がこれに該当し、破産をしても免責されないのではないかが問題となります。
この点について東京地裁平成28年3月11日判決は、破産法253条1項2号の「悪意」を「故意を超えた積極的な害意をいう」とし、被告の不法行為はその違法性の程度が低いとは到底いえないとしつつも、被告が一方的に不貞相手を篭絡して原告の家庭の平穏を侵害する意図があったとまで認定することはできないとして、積極的な害意を否定し、非免責債権には該当しないと判断しました。
このように、全ての不貞行為に基づく損害賠償請求権が非免責債権に該当するという訳ではなく、相手の家庭を壊そうという積極的な意図があるような悪質な場合には、非免責債権に該当する可能性が出てきます。例えば、恋愛感情はなく相手の家庭を壊すことを目的に不貞行為をしていたような場合や、不貞が発覚し、不貞行為を止めるように警告されていたにもかかわらず、関係を継続したようなケースでは害意があるとされる余地が出てくるように思います。
破産法上の「害意」まであるとされるケースはそれ程多いとは思われませんので、破産手続をとれば、基本的には免責されることにはなろうかと思いますが、ご紹介しておこうと思います。