対価を伴う肉体関係が不貞行為と認定された裁判例
弁護士 幡野真弥
東京地裁平成27年 7月27日判決をご紹介します。
妻(原告)が、夫の不貞相手の女性(被告)に対し、慰謝料を請求し、訴訟となりました。
事案の概要は、以下のとおりです。
夫は、風俗店を週1回程度訪れ、対価を支払って被告との間で肉体関係を持っていました。
被告は、平成25年10月頃、夫と被告は、店舗外で会うこととなり、夫は、被告に対し、2万5000円を支払うので今後も会って肉体関係を持ってほしいと提案し、被告もこれを了承しました。
その後、夫と被告は,平成26年2月頃まで、店舗外で会い対価を授受した上でホテルで肉体関係を持ち、その後は食事をして別れるということを月1~2回程度、合計10回程度繰り返しました。
原告は、同年2月頃、夫と被告との関係を知った。
被告は、原告に対し、同年5月7日頃、夫との関係を謝罪する旨の文書や、今後は夫と接触しない旨の誓約書を送付しました。
裁判所は「これらの認定事実によると,被告は,夫が婚姻していることを知りながら夫と肉体関係を継続的に持っていた事実が認められるが,そのうち平成25年10月までのものは,性的サービスの提供を業務とする本件店舗において,利用客である夫が対価を支払うことにより従業員である被告が肉体関係に応じたものであると認められ,それ自体が直ちに婚姻共同生活の平和を害するものではないから,これが原因で原告と夫との夫婦関係が悪化したとしても,被告が故意又は過失によってこれに寄与したものとは認め難いというべきである。」と判断し、
「同月以降に被告がAと持った肉体関係は,本件店舗外におけるものであることが認められるところ,Aは,単に性的欲求の処理にとどまらず被告に好意を持っていたからこそ,本件店舗の他の従業員ではなく,被告との本件店舗外での肉体関係の継続を求めたものであり,被告もこれを認識し又は容易に認識できたのにAの求めに応じていたものと認められるから,被告が自らは専ら対価を得る目的でAとの肉体関係を持ったとしても,これが原告とAの夫婦関係に悪影響を及ぼすだけでなく,原告との婚姻共同生活の平和を害し,原告の妻としての権利を侵害することになることを十分認識していたものと認めるのが相当である。
そうすると,被告が同月以降に本件店舗外においてAと肉体関係を持ったことは違法性を帯び,不法行為に該当するものというべきであり,被告が対価を得て行っていた職務であって不貞行為に該当しないとする被告の主張は採用できない。」とし、慰謝料については、
「その不貞行為はAが主導して行ったもので,被告がAに対して好意や恋愛感情を抱いていたものではなく,回数も10回程度にとどまるというのであり,被告による不法行為の態様が非常に悪質とまでは評価できないというべきである。また,証拠(甲2,乙1,2,証人A,被告本人)によれば,被告は,Aから1回2万5000円の対価を得ていたほかに金銭を受領していたものではないこと,Aとの関係の発覚後,被告が原告に対し,Aとの関係を謝罪する旨の文書及び今後Aと接触しない旨の誓約書を送付して一定の慰謝の措置を講じたこと,被告が誓約書に反してAと本件施設に赴いたのはAが主導したものであることが認められ,原告の精神的苦痛は,主にAの行為によるところが大きいものと認められる。」として、60万円と判断しました。