慰謝料請求された
目次
1. はじめに
不倫は、夫婦生活の平穏を侵害するものであり、不倫をした方には慰謝料を支払う責任があります。そして、慰謝料請求通知は、通常は、不倫相手の配偶者本人や、弁護士から突然、送られてきます。多くは書面ですが、メールや口頭の場合もあります。
このように慰謝料請求通知が突然届く上、不倫をしていた事実自体に身に覚えがある場合、多くの方は自分の家族に知られたくない、穏便に終わらせたいという思いもあり、焦ってしまいます。
その結果、初期の段階で、ご自身による不適切な対応をしてしまうことになり、解決までに余計に時間や費用が掛かってしまうということが珍しくありません。
そのため、基本的には、慰謝料請求通知を受け取った段階で一度、専門家に相談され、ご自身での対応が適切か、弁護士による介入が必要な案件か判断から相談されることをお勧めいたします。
そこで、本ページでは慰謝料請求の通知を受け取ったときに陥りがちな良くない対応についてご説明するとともに、なぜそれがリスクを伴う対応なのかをご説明し、実際にはどのように対応するのが良いのか、当方にご相談に来ていただいた場合に可能な対応などをご紹介していきたいと思います。
2. 関係者相関図
不倫の慰謝料請求については、複数の関係者がいるのが通常です。これからの説明の前提として、まずは、関係者相関図をご覧ください。これは、仮に夫Aと妻Dが不倫関係になってしまった場合の相関図です。3以降のご説明は、この相関図も利用しながらご説明していきます。
〈関係者相関図〉
3. 避けた方が良いご自身による対応
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期限を気にして焦って回答する
慰謝料請求の通知には、回答の期限が設定されていることがあります。特に相手方に弁護士がついていますと、回答期限が設定されていることが多いです。
そのため、その期限までに結論を出さなくてはいけない、回答しなくてはいけないと考えてしまい、ご自身で、焦って結論を出して回答してしまう方がいらっしゃいます。
もちろん、回答期限までに回答できた方が良いこともありますが、結論まで出せないときには、「考えているのでもう少し時間をください」などの猶予を求める回答でよい場合もあります。
ただし、状況次第というところはありますので、弁護士には期限までに余裕のある段階で早めにご相談いただければと思います。 -
謝罪や無理な金額の支払い、無理な条件を約束する
例えは、お客様が不倫をした立場(上記関係者相関図夫A)の立場であったとしますと、夫Cより不倫の慰謝料請求がなされる可能性があります。この場合、夫Cは感情を害していることが多く、裁判例に照らして相当な範囲を超える慰謝料が請求されたり、あるいは、お客様自身の配偶者である妻Bに対して不倫をしていた事実を話すように求めたり、お客様(夫A)と妻Dが社内不倫の場合には、お客様(夫A)に退職するように要求してくることもあります。
不倫の事実に身に覚えがある場合、多くの方は自分の家族に知られたくない、穏便に終わらせたいという思いもあり、突然の慰謝料請求通知に焦ってしまいます。そのため、相手方本人(夫C)もしくは代理人に連絡をして、とりあえず謝罪をしたり、事実とは違うことまで認めてしまったり、払う資力もないのに高額な慰謝料を支払う約束をする誓約書に署名押印をしてしまうという事態になることが珍しくありません。
実は、このような対応は実際に不倫をしていた事実があるとしても大変リスクのある行為です。
4. 安易な対応によるリスク
お客様としては、実際に不倫をしていた場合には、いずれは謝罪もしなくてはいけないし、慰謝料も払わなくてはいけないのだから、大きな問題はないのではないかと思われる方もいらっしゃると思います。
しかし、今の実務や合意の仕方を考えますと以下のように大変リスクのある行為であると言えます。
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安易な合意
- 既婚者との交際=配偶者に対する不法行為となり、必ず慰謝料が発生するというわけではない。
- 慰謝料の金額については裁判で認められうる一定の基準が存在する。
というのが今の実務の考え方です。
すなわち、仮に不倫をしていたとしても、事情を吟味した結果、仮に裁判になった時には、慰謝料が発生しない可能性があったり、慰謝料が低額となる可能性がある場合もあるということです。
このようなことを確認せずに、ご自身で対応されてしまうと、後に、慰謝料の発生自体を争いうる事案であったり、通常よりも著しく高い金額であったと分かっても、合意を覆すことは難しくなります。
また、日本の民事裁判においては、当事者間の合意を一定程度重視しますので、通常よりも高額な慰謝料であっても、当事者間で一度合意をしている場合には、合意を尊重されてしまい、合意した金額が裁判で認められる可能性も出てきます。さらに、勘違いされている方も多いのですが、日本の法制度において“合意”は口頭やメールのやりとりのみでも成立しうるものです。
そのため、電話で了承したことを相手方に録音されていたり、金額について了承したメールを相手方が保管していたりする場合には合意を裏付ける証拠となりえます。
書面に署名押印しなければ問題ないと考え、安易に口頭やメールで合意をする行為も大変リスクのある行為であることがお分かりいただけるでしょうか。 -
不十分な合意内容
ご自身で、合意をして、お金を払ったのに、追加で慰謝料を請求されたり、不倫の事実を口外されたりすることで、解決に至らずに、困ってご相談にいらっしゃる例も珍しくありません。
この原因は不十分な合意内容にあることがほとんどです。
例えば、追加請求は一切なしという確認(いわゆる清算条項)が入っていなかったり、不倫の事実や話し合いの事実を第三者に口外しない約束(いわゆる口外禁止条項)が入っていたなかったりするため、せっかく合意をして慰謝料を払っても、紛争の抜本的解決に至らないのです。
合意をしても紛争が終わらないのでは意味がありません。
合意内容を検討する際には、目の前の相手方からの要求を何とかやめさせるという短期的な目標ではなく、紛争の抜本的解決のためにどんな条項が必要かということを事案の状況に合わせて考える必要があります。
その意味で専門家のチェックを経ずに合意することにはリスクが伴います。
5. お客様自身の配偶者の問題
仮にお客様が夫Aの立場で、夫Cより慰謝料請求の通知を受けてしまったとき、お客様にも妻Bがいらっしゃいますので、ご自身の配偶者の対応も併せて対応を検討した方がよい場合があります。
今回は、この点についての一般的な考え方を、関係者相関図を利用して簡単にご紹介します。
相関図にしたがって、お客様ご自身を夫A、ご自身の配偶者を妻B、お客様の不倫相手を妻D、不倫相手の配偶者を夫Cとさせていただきます。
この場合、法的には、夫Cのみならず妻Bも夫A・妻Dに対して慰謝料請求できることになります。誰から誰に対する請求が可能か、簡単に図示いたします。
夫C→夫A・妻D
妻B→夫A・妻D
そのため、仮に夫Aと夫Cの間で合意をしたとしても、妻Bとの間で再度紛争になる可能性があるわけです。この点を考慮した場合、実は、ABCDの四者間で合意をしてしまった方がよいケースがあります。
実際に当方でこのような解決をした事例(不倫が相手の女性の夫に知られ、慰謝料の支払いを請求されましたが、最終的には金銭的な賠償のない合意をすることができた事例)があるのでご参考になさってください。
ご自身の配偶者も含めて解決した方がよいか否かについては、不倫の事実がご自身の配偶者に発覚しているか否か、ご自身が今後、配偶者との婚姻関係をどうしていきたいか、離婚予定なのかなどの細かい事情によって異なります。
結果、ご自身の配偶者とは別に解決でよいということになる場合もあるのですが、いずれにせよ、ご自身の配偶者の問題を一切度外視して合意することは紛争の再燃を招く可能性があるため危険です。
6. お勧めの対応
慰謝料請求通知を受領した際に、安易にご自身で対応することにはリスクがあるということはご説明してきたとおりです。
では、そのようなリスクを出来る限り減らすために、どのタイミングでどのような対応をするべきでしょうか。
まず、慰謝料請求通知を受領した際、ご自身で動く前に、一旦、専門家に相談することをお勧めします。
ご自身のお仕事の都合等で、専門家への相談もすぐには難しい場合で、回答までの時間が気になる場合には、相手方には、正直に検討する時間がほしいと伝えて、回答期限を延ばしてもらうのも一つの方法です。
当事務所では、これまでの経験上、初回相談の段階で、費用対効果の問題も含め、最初から弁護士を入れるべき事案か、まずはご本人対応でお願いできそうな事案かというおおよその判断をさせていただくことが可能です。
そのためごお客様は、当方のアドバイスを聞いた上で、ご自身で対応するか否か、対応するとしてその方法を検討することが可能になります。
さらに、仮にご自身で対応するとしても、最後の合意書だけは専門家に作成してもらうというのも一つの方法です。
当事務所でも、初期段階でご相談に来ていただいた際、事案によっては、交渉はご自身で対応いただき、合意書だけは当方で作成させてもらうという方法をご提案することもございます。
このように専門家への依頼にもさまざまな方法があります。そのため、依頼の要否だけではなく、依頼方法の選択肢を正しく把握するためにも、初期段階で相談に行っていただくことが重要かと思います。
7. まとめ
既婚者との交際は決して褒められた行為ではありません。傷つく配偶者がいることも事実です。しかし、だからこそ、ご自身での適当な対応は避け、誠実な対応を検討するべきではないかと思います。
当方の経験上、一度、適当に合意したものを反故にするという事態になった時に一番相手方を怒らせることになります。相手方には、これが何より不誠実な対応と映るからです。
ご自身のためのみならず、相手方に誠実な対応をと考えられるのであれば、その誠実な対応のためにも、早い段階で、ぜひ一度、ご相談いただければと思います。