不倫の加害行為②
弁護士 小島梓
前回ご説明したとおり、肉体関係や性行為があれば不貞行為の加害行為に当たることは間違いありませんが、絶対的要件ではなく、肉体関係や性行為が認められない場合でも、不貞行為(もしくは不法行為)があったと認定される場合があります。
今回は、その具体的な行為について見ていきたいと思います。具体的な事例のご説明になりますので、わかりやすく、関係者については不倫をした夫、妻、不倫相手の女性と表記いたします。
(1)離婚や別居の要求
裁判例では、不倫相手の女性が不倫をした夫に対して、妻との別居や妻と離婚して結婚することなどの要求を繰り返したり、キスをしたなどの事情から不貞行為があったと認定したケースがあります(東京地方裁判所平成20年12月15日判決)。
不倫相手の女性からこういった言動が出てきやすいのは、不倫をした夫と不倫相手の女性との関係が不安定になり始めたときです。
不倫をした夫から交際解消を切り出されたりすると、不倫相手の女性がヒートアップしてしまい、不倫をした夫に対して、結婚する約束を守れ、早く妻と別れろ、不倫関係を妻にばらすなど言いだし、交際関係を維持しようとすることがあります。不倫をした夫も怖くて関係解消ができなくなり、不倫関係が続いてしまいます。
しかし、このように不倫をした夫に対する要求自体が婚姻関係を破綻させたと認定されれば、それ自体が不貞行為となる可能性がありますし、繰り返されれば慰謝料の増額事由になる可能性もあります。不倫相手の女性にとってもよいことではありませんので、交際解消を決断したものの、うまくいかないときには早めにご相談いただくことをお勧めいたします。
(2)親密な内容のメール、SNS、LINEなどのやり取り
不倫をした夫と不倫相手の女性との間で頻繁にLINE等のやり取りがなされていることは非常に多いです。当該内容から二人の間に肉体関係があったことが推測されるような場合は、当該LINEのやり取り自体から肉体関係があったことが認定される可能性が出てきます。
しかし、直接的に肉体関係があったことを推認させるような内容でなければ問題ないというわけではありません。裁判例では、「逢いたい」「大好きだよ」などといった愛情表現を含むメールのやりとりについて、不倫した男性と不倫相手の女性との身体的接触があったような印象を与え、妻がこれを読んだ場合、婚姻生活の破綻を招きうるものということで、このようなメールのやりとり自体を主な事情として不法行為があったことを認定したケースがあります(東京地方裁判所平成24年11月28日判決)。
(3)会っていたこと
不倫をした夫と不倫相手の女性との間の肉体関係までは認定できないが、会っていたという事実から不貞行為が認定されることはあるのでしょうか。
結論としては、他の事情次第ではあり得ます。
裁判例では、不倫をした夫と不倫相手の女性が深夜の時間帯にあっていたことが、妻が両名の不貞関係が再開したという疑いを抱くに十分な行為であるという理由で妻に対する不貞行為があったと認定したケースがあります(東京地方裁判所平成25年4月19日判決)
以上のように、不倫をした夫と不倫相手の女性との間に肉体関係まで認められない場合でも、離婚や別居を要求した、LINEのやりとり、または会っていた事実などが婚姻関係を破綻させるに十分と考えられる場合には、妻に対する不貞行為(不法行為)があったと認定され、慰謝料の支払い責任が発生する場合があります。
次回以降、次の要件②故意・過失について見ていきたいと思います。