社内不倫により行った解雇が無効とされた事例
弁護士 長島功
社内不倫を理由とした解雇については、不倫はあくまで私生活上の非行に過ぎず、当然に解雇をすることは法的には難しいです。そこで、普通解雇の事例ですが、解雇は相当ハードルが高いことが分かる事例を1つご紹介したいと思います。
このケースでは、解雇された従業員(以下、「X」)には不倫行為だけではなく、問題となる以下のような言動が複数認められました。
1 Xの問題行為
(1)勤務シフトの変更
Xは不倫相手を特別扱いし、正規の手続を経ることなく、不倫相手のシフト変更を行い、早出するシフトを利用するなどしました。
これは他の社員の士気に悪影響を与えたり、不平不満を抱かせ、ひいては、業務の効率性・能力にも悪影響を及ぼすものと裁判所は判断しています。また、Xは、不倫は私生活上の行為に過ぎず、Xが不倫していることを問題としている従業員を指導・注意すべきといった主張をしており、裁判所は、Xが自らの行為について反省しているかについては甚だ疑問があるというほかないという判断も行っています。
(2)電子メールの私的利用
Xとその不倫相手は業務中に、私的なメールのやり取りを行っており、Xが送信したメールのうち、不倫相手に送った割合は約25%、不倫相手が送信したメールのうち、Xに送った割合は、約57.8%というものでした。そのため、裁判所は、業務に関係のないメールが多数存在したことは容易にうかがわれると判断しています。
また、この私的なやり取りが原因で職務上のミスを犯したという事情はないが、常識の範囲内とは到底いえない数のやり取りをしていることからすれば、それに要した時間は正当な業務に従事していなかったことが明らかで、その時間も賃金の支払い対象となっているのであるから、業務に影響は生じていると判断しました。
(3)個人メールアドレスへの送信
Xの勤務先では、会社情報を自宅PCに送信することが禁止されていましたが、Xは42通のメールを自宅PCに送信していました。
(4)不倫相手に対する暴力行為
Xは不倫相手に対し、顔面をビンタしたり、腕を強くつかむなどの行為をしており、裁判所もこれらの行為は暴行に該当するもので、許されるものではないと判断しています。
(5)パワーハラスメント
不倫相手に対しては、解雇することができるかのような文言が含まれたメールを送り、またその他のスタッフに対しても、目がうつろですよ、うつ病ではないかといった趣旨の発言をしたこと等が認められ、裁判所もXの発言が不適切であることは明らかとしています。
(6)ストーカー行為
不倫相手に復縁を求めるメールを21通連続して送信したり、不倫相手の母親に対し、子が不倫していたことがある旨のメールを送信しました。裁判所もこれらの行為は問題で、人格的非難に値する行為であることはいうまでもないと判断しています。
2 解雇無効の判断
しかし、裁判所はそれでも、解雇事由として重大な事由とまではいえず、Xを解雇するのは重きに過ぎると判断しました。
具体的には、上記各問題行動については、以下のように判断しています。
(1)勤務シフトの変更
Xの行為によって、会社の活動に重大な支障が生じたことを認めるに足りる証拠はないとしました。また、シフト変更などの目的は不倫相手と一緒に出退勤したり、昼食を一緒に食べるためという非常に幼稚なもので、勤務時間を長くして収入を増やすという経済的な利益を追求するものではないとしました。
そのため、このような行為を行うXに勤務管理をさせることはふさわしくなく、懲戒処分事由や配転事由には該当するものの、これをもって、解雇するというのはいささか重過ぎるとしました。
(2)電子メールの私的利用
上記のとおり、Xの行為の問題性を指摘しつつも、この私的利用により、サーバーダウンするなどの重大な影響が会社に生じたわけではなく、また私的なメール作成に要した時間もそれほど長くなく、生じた影響が大きくないことからすれば、解雇は重過ぎるとしました。
(3)個人メールアドレスへの送信
禁止されたのは「会社の情報」の送信であったところ、実際の内容は不倫相手との交際に関するものや飲み会に関するもので、「会社の情報」ではなく、業務に関する情報が外部に漏洩した訳ではありませんでした。そのため、裁判所は結果的に情報漏洩の問題が生じなければよいわけではないが、実際には会社が禁じている情報が含まれていなかった以上、解雇事由にまで該当するとはいえないとしました。
(4)不倫相手に対する暴力行為
この暴行は、昼休みあるいは退勤途上の行為で、私生活上の行為であるとしました。また、この行為が刑事事件となったり、報道がなされたという事情はなく、会社の業務遂行あるいは社会的名誉・信用・評価に何らの影響が生じたことを認めるに足りる証拠はないとし、人格的非難には値するものの、これをもって解雇事由に該当するということはできないとしました。
(5)パワーハラスメント
不倫相手に対するものですが、確かに解雇することができるかのような文言はあるものの、経緯などから不倫相手との間の痴話げんかというべきで、非違行為ということはできないから、解雇事由にまでは該当しないとしました。また、他のスタッフに対するものも、そのスタッフと友好的な関係にあることから、Xの発言がそのスタッフに与えた影響はそれほど大きなものではなく、発言は不適切であるものの、これをもって解雇するのは重過ぎるとの判断をしました。
(6)ストーカー行為
これらの行為は、不倫相手の退職(派遣終了)後に行われたもので、私生活上の行為であることは明らかとし、この行為が会社の社会的名誉・信用を毀損したということもできず、解雇事由にまで該当するということはできないとしました。
このように、裁判所は複数、Xの言動に問題点があることを認め、人格的非難に値する行為等とはしたものの、それが私生活上の行為であったり、業務に影響を与えるものであったとしても、その程度が解雇までには至っていないということで、解雇無効の判断をしています。この事例からも分かるように、如何に不倫や、それ以外の非違行為があったとしても、それが会社に重大な影響を与えない限りは、解雇をすることが非常に難しいことがお分かりいただけたかと思います。
ただ、この裁判例では最後に、今後もXが会社からの注意・指導を真摯に受け入れることなく、注意・指導が積み重ねられたにもかかわらず、Xが自らの言動を顧みることなく、本件訴訟に現れた会社からの注意・指導に対する態度と同様の態度を取り続けるのであれば、解雇が相当となることも十分にあり得ると述べていますので、一応触れておきます。