不倫と建物明渡しに関する裁判例
弁護士 長島功
不倫関係の解消でご相談される際、不倫関係の維持などのために、高価なものやお金を渡しているケースがあります。
このようないわゆる愛人契約のようなものは、法律上、公序良俗に反して、無効とされます。そのため、無効な契約に基づいて渡したわけですから、渡したものは返還されるべきようにも思われますが、原則的には不法の原因のために給付したものは、返還請求できないとされています(民法708条)。
ただ、不動産を貸していたりするケースでは、個別の事情如何では、返還請求できないことが不当な場合もあります。
そこで、今回は不倫相手にマンションを無償で提供していたケースで、不倫関係の解消に伴って、その明渡し等を請求し、認められた裁判例について、ご紹介しようと思います。
1 事案の概要
原告は、もともと被告の夫に本件マンションを賃貸していました。
ただ、その後被告の夫が亡くなり、前妻を亡くしていた原告は、被告と交際を始め、本件マンションを無償で貸すようになりました(この頃、原告は被告に対し、結婚の申し込みをしたが、被告は拒否しています)。
その後も原被告は交際を継続しました。交際中、原告は被告に対し、生活費として毎月50万円や、被告の子の学費を援助したり、高級外車を貸与するなどしていました。
交際開始から8年程経った頃、原告は被告に知らせることなく、現在の妻と婚姻し、その約6年後には、妻との間に子をもうけました。そして、この頃原告は被告に対し、交際の解消を申入れるとともに、本件マンションの返還を求めたところ、被告より拒否をされたことから、裁判となりました。
2 裁判所の判断について
この裁判では、①原被告間のマンションを無償で貸すという契約(使用貸借契約といいます)が終了しているか、②本件マンションの返還の請求は、不法原因給付の規定に照らして許されないかが主な争点となりました。
(1)契約の終了について
まず、①の使用貸借契約が終了しているかについてですが、裁判所は、当初交際相手やその子を居住させる目的で、期間を定めずに、本件マンションを無償で貸与したものの、それから約14年が経過した時点で交際が解消され、返還を求めたものであるから、本件マンションの使用及び収益をするに足りる期間が経過したものとして、契約は終了しているという判断をしました。
(2)不法原因給付との関係について
本件では、原告は再婚後も被告との関係を継続しており、被告との不倫関係を維持するために、本件マンションを貸し続けたものだから、本件マンションは不法原因給付物であるとして、その返還を求めることは許されないとして、被告は争いました。
しかし、裁判所は、以下のような点を踏まえて、被告の主張を認めませんでした。
■まず原告が再婚を告げずに、被告と交際を継続していたのであるから、これは不倫関係を継続していたことになり、問題である。
■しかし、被告は原告が婚姻したという噂は聞いており、それでも原告との交際を継続していたのであるから、これは本件マンションにおいて無償で生活し、多額の援助等を受ける地位を維持したかったからと考えられる。
■長年にわたって、原告より無償で本件マンションに居住し、多額の金銭的な援助を受けていた上に、被告も交際途中からは稼働していること等からすると、本件マンションから通常の物件に転居して生活することに特段の支障があるとは考え難い。
といった点を挙げ、仮に原告の主張が認められなければ、交際が解消した後も、自らが望む限り被告は将来にわたって、無償で住み続けられることになってしまうが、それは不当であるとして、被告の主張を排斥しました。
ご紹介した裁判例は、個別の事情を踏まえて判断をしているものですので、ご紹介いたします。似たようなケースでお困りの方は一度ご相談いただければと思います。