既婚男性と独身女性がラブホテルに滞在したりした事実があるにもかかわらず両者が不貞行為に及んだ事実は認定できないとされた裁判例
弁護士 幡野真弥
不貞行為とは、既婚者が配偶者以外の者と性行為に及ぶことをいいます。
不貞行為があったことを立証するためには、メールのやりとりや、ラブホテルに出入りする様子を撮影した写真などの証拠が必要です。
ラブホテルに一緒に滞在していたという事実があった場合、通常は、不貞行為があったと裁判所でも認定されます。
しかし、福岡地裁令和2年12月23日判決は、婚姻関係にない成人の男女が、多数回、一緒に、宿泊したりラブホテルに滞在したりした事実を認定しましたが、両者の間でやり取りされたLINEの内容に鑑みて、両者が不貞行為に及んだ事実を否定しました。
被告の主張は「被告と男性は依存症者に対する援助の在り方の向上やアダルト・チルドレン(親がアルコール依存症であったり機能不全家族で育ったりしたことが原因で大人になってからも心に傷やトラウマを抱えた人)からの回復等を目的として相互学習しており,男性が被告に指導するという形での師弟関係にあったにすぎず,一緒に旅行して宿泊したのは,学習に関する講座やミーティングに参加するためであり,ラブホテルを利用したのは,教材であるDVDの視聴,学習に関する書物の読合せ,ロールプレーによる支援技法やカウンセリングの学習をするのに適当で利用料金が低額な場所がほかになかったからである。」というものでした。
通常は、このような弁解が出されても、裁判所は不貞行為があったことを否定することは稀ですが、今回の裁判例では、「いずれもアダルト・チルドレンかつ共依存症であると自覚する両者が,精神世界の理論についてマンツーマンで相互学習するという精神的に緊密なつながりのある師弟関係にある」という、被告と男性の特殊な関係等を踏まえて、メールのやり取りを精査し、被告と男性の間に不貞行為があったとはいえないと結論づけました。
やや特殊な事例ではありますが、ラブホテルに滞在の事実があっても、不貞行為を否定した裁判例として、参考になるものと思います。